思えば、メガネは美しい 「EYEVAN E-0505」

着るメガネ=アイウェア

EYEVAN は、1972 年に日本初のファッションアイウェアブランドとして登場しました。石津謙介氏のファッションブランド「VAN ジャケット」と、山本防塵眼鏡の専務であった山本哲司氏(現:アイヴァン会長)が共同で設立したブランドです。今となってはメガネはファッションアイテムとしてのポジションを確立していますが、当時のメガネは視力矯正器具でありデザインも無機質なものが多かったそうです。

いっぽう欧米では、1960 年代くらいからクリスチャン・ディオールやイヴ・サンローラン、ニナ・リッチと言ったファッションブランドのサングラスが華々しくマーケットを彩っており、メガネにもそういったファッションカルチャーが飛び火してきそうな気配の70 年代初頭にEYEVAN は誕生しています。

アイウェアとは、“着るメガネ” という「眼鏡はファッションに合わせて着替えるもの」というアイヴァンのコンセプトか ら派生した言葉だと聞いた事があります。世界の眼鏡史を一変させた伝説的なジャパンブランド「BADA」の登場よりも 10 年以上も早いのですが、EYEVAN は今と同様にクラシカルなデザインを踏襲していたためファッションアイウェアと しての認知は80 年代に入ってからだと思います。1986年はメガネ界にとって、世界的なシンギラリティだったと私は確信しています。


” ボストン” と” ウェリントン” の生みの親

メガネに多少なりとも詳しい方でしたら、「ボストン」や「ウエリントン」というメガネの形を聞いた事があると思います。アメリカの都市のような名前ですが、1987 年に出版されたと” THE GLASSES” を読むと1970 年代にEYEVAN のデザイナーだった山本哲司氏が、逆三角形型のおにぎりシェイプを「ボストン」、四角いスクエア型には「ウェリントン」と名付けたメガネを発売したとあります。

つまり「ボストン」や「ウエリントン」はモデル名であったことが分かります。おにぎり型の逆三角形な形を「ボストン」、スクエアな形を「ウエリントン」と今日まで呼ばれるようになりました。もっと掘り下げてみると、このモデルはEYEVAN のセカンドブランドであった「アイビーリーガーズ」というブランドから出されたモデルだったそうです。

「アイビーリーガーズ」の商品パッケージには1977 年に設立と書いてあるので、この時点でもまだ70 年代。「VAN」は1978 年に倒産してしまいますから、EYEVANやアイビーリーガーズはアイビーファッションの最末期に誕生したメガネなのです。

余談ではありますが、「ボストン」と「ウエリントン」のほかに「レキシントン」というモデルがあったそうです。何故か忘れ去られてしまったモデル?形?ではあるのですが、GROOVER の2nd コレクションをデザインした時にオマージュとして「LEXINGTON」というモデルを作りました。実物を見たことがなかったので、想像でデザインを仕上げたのを覚えています。聞いたところによるとスクエアシェイプであったそうです。GROOVER のLEXINGTON もスクエアシェイプでした。


0505 から始まったアイヴァンの覚醒

さて今回はE-0505 というアイヴァンのマイルストーンとなったモデルを紹介します。「E-0505」は、EYEVAN を代表するモデルであり、発表後、多くのブランドのデザインソースとなったアイコニックなスタイルです。ボストンシェイプのプラスチックリムをマンレイブリッジと特徴的なデザインのヨロイパーツで構成したコンビネーションフレームです。

そのアイコニックなスタイルを決定づけた出来事があります。
1985 年、アイヴァンはアメリカ・アナハイムで開催されたアイウェアの展示会で、オリバーピープルズの創立者であるラリー・レイトの目に留まります。その中でも「0505」というモデルの彫金技術やコンビネーションフレームの美しさに魅了されたラリーは、1986 年にオープンする「オリバーピープルズ」という伝説的なメガネ店でEYEVAN の取り扱いを開始しました。そして「オリバーピープルズ」のショップオリジナルモデルも発表しました。



オリバーピープルズの創設者の一人であるケニー・シュワルツ氏はこう証言しています。「オープンの直前までショップのコンセプトが決まらず苦心していました」。ヴィンテージフレームの熱心なコレクターだったシュワルツ氏であったそうですが、全く新しいオリジナルのメガネを作りたいと考えていたそうです。

アナハイムの展示会でEYEVAN と、そして「0505」と出会い運命的な繋がりを感じたそうです。そしてEYEVAN を展開するオプテックジャパンと連絡をとり、オリジナルフレームの生産を依頼。ヴィンテージアイウェアに現代的なエッセンスを加えた革新的なデザインとなった「オリバーピープルズ」の始まりでした。
その年、ラリー氏がアンディ・ウォーホル氏のために特別にデザインしたフレームがVOGUE 誌の表紙を飾り、一気に世界中へ伝播していくことになります。


E-0505 へ引き継がれた系譜

EYEVAN とオリバーピープルズは切っても切れない縁であるのですが、オリバーピープルズはこれまでに何度かのブランド売却がありました。現在はレイバンなどを展開するイタリアのルクスオーティカグループがブランドを所有しています。80 年代後半〜 00 年代のオリバーピープルズが世界的な広がりを見せる一方で、EYEVAN はブランドが休止されていた時期がありました。これはもともとの「VAN」の衰退が、かなり影響しているのではと私は考えています。オプテックジャパン社も、その間は日本でオリバーピープルズの販売に注力していました。

オリバーピープルズのブランド売却もあり2018 年にEYEVAN は復活を遂げます。0505 もこのE-0505 として2020 年に復活しました。当時のままの美しい彫金模様と、洗練されたコンビレーションフレームは現代でも廃れることのない美しいフォルムです。


オリバーピープルズの成功により、アメリカンブランドの日本生産の流れが確立されました。今もその潮流は強く、日本製が高く評価される所以となっています。海外で活躍する日本ブランドが減り続けているなかで、EYEVAN は非常に貴重な存在になっています。世界のトレンドはこういったクラシックデザインではなくなってきているのにも関わらず、こういった歴史によって評価され続けている事はとても凄いですね。「一期一会」で「ローマは一日にして成らず」みたいな逸話たっぷりのEYEVAN E-0505 なのであります。


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